歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の演目
『暫』 しばらく
作品紹介
清原武衡(きよはらのたけひら)が、自分の意に従わない人々を家来に命じて斬ろうとするところに、「しばらく」という声とともに鎌倉権五郎(かまくらごんごろう)が登場し、人々の命を助けるというストーリーです。
江戸歌舞伎では、俳優は芝居小屋と1年ごとに契約を結びました。その契約のスタートする11月の興行は「顔見世(かおみせ)」とよばれ、一座する俳優の顔ぶれを披露する最も重要な年中行事でした。この「顔見世」で上演される作品には、おもな俳優が一堂に会し、「しばらく」という声とともに登場する正義感あふれる人物が、悪人に殺されかけている人々を救う場面を組込む慣習がありました。
 
典型的な役柄のそろう『暫』
 
「顔見世」で上演されたさまざまな作品で、何度も演じられたこの場面は、次第に洗練されていき、一定の演出が完成しました。明治以降は、この場面を『暫』として独立させて上演するようになり、現在に至っています。このような経緯で誕生したため、ストーリーを楽しむというよりも様式化された演出を楽しむ演目といえます。
主人公は代々の市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)が得意とした「荒事(あらごと)」で演じられるため、『暫』は團十郎家の「家の芸」である「歌舞伎十八番」の1つに数えられています。
 
 
 
特徴的な表現
典型的な役柄
『暫』には、一座のおもな俳優の顔ぶれを披露する意味があったため、さまざまな役柄が登場します。
 
<荒事>
 
荒事(あらごと)
鎌倉権五郎は、「車鬢(くるまびん)」の鬘(かつら)に力紙(ちからがみ)という和紙をつけ、「筋隈(すじぐま)」とよばれる「隈取(くまどり)」、團十郎家の三升(みます)の紋[升を三つ重ねた形]を大きく染め抜いた「素襖(すおう)」という衣裳に身を包んでいます。これらの扮装は、すべて強くまた大きく見せるための工夫です。
 
<公家悪(くげあく)>
 
公家悪(くげあく)
清原武衡は、「公家悪」とよばれる身分の高い敵役の典型で、「公家荒れ(くげあれ)」とよばれる青い「隈取」、位の高いことを象徴する金冠白衣(きんかんびゃくえ)を身にまとっています。通称「ウケ」とよばれています。
 
<道化方(どうけがた)>
 
道化方(どうけがた)
通称、鯰坊主(なまずぼうず)とよばれる入道震斎(しんさい)は、その通称の通り、「鬢(びん)」の毛が鯰の髭(ひげ)のように長く伸びた鬘、同じく鯰の髭を表現した「隈取」で登場します。衣裳には、ユーモラスな蛸の模様が染め抜かれています。
 
<赤っ面(あかっつら)>
 
赤っ面(あかっつら)
武衡の横に居並ぶ成田五郎(なりたのごろう)を筆頭とした面々で、腹を出しているため通称「腹出し(はらだし)」とよばれます。「赤っ面」という役柄名は、文字通り顔を赤く塗った上に「隈取」をしていることに由来し、「公家悪」などの位の高い敵役とは異なり、実際に暴力を振るう敵役です。
 
この他通称「太刀下(たちした)」とよばれ、権五郎に助けられる善人の中には、「二枚目(にまいめ)」や「赤姫(あかひめ)」などの役柄の人物が居並びます。
 
 
 
ツラネ
権五郎が、「花道(はなみち)」で一気に語る長ぜりふは「ツラネ」とよばれます。「荒事」の芸の1つである雄弁術を聞かせるせりふで、掛詞(かけことば)などをもりこんだ内容は、基本的には上演の都度変えられます。
 
 
 
化粧声 けしょうごえ
権五郎が「花道」から「本舞台(ほんぶたい)」に来て両肌を脱いでいる間、舞台上では、「アーリャー、コーリャー」という声が繰り返され、権五郎の「見得(みえ)」に合わせて最後に「デッケエ」という声が上がります。これを「化粧声」といい、「荒事」の登場人物に対してかけられる褒めことばです。『寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』の曽我五郎などでも掛けられます。
 
> 代表的な演目 『寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』
 
 
 
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