歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の演目
『廓文章』 くるわぶんしょう
通称 『吉田屋』 よしだや
作品紹介
近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)作の『夕霧阿波鳴門(ゆうぎりあわのなると)』の一場面を元に脚色した作品で、通称『吉田屋(よしだや)』とよばれます。
 
遊蕩の結果、親から勘当を受けた伊左衛門(いざえもん)は、みすぼらしい「紙衣(かみこ)」姿で、久しぶりに恋人夕霧(ゆうぎり)のいる吉田屋を訪ねます。夕霧は他の客の相手をした後、やっと伊左衛門のもとにやってきますが、伊左衛門は嫉妬して夕霧を罵ります。やがて勘当が赦されたという知らせとともに千両箱が届き、伊左衛門は夕霧を身請け(みうけ)します。
伊左衛門役は、「和事(わごと)」の創始者とされる初代坂田藤十郎(さかたとうじゅうろう)が得意とし、1678年[延宝6年]に『夕霧名残の正月(ゆうぎりなごりのしょうがつ)』で演じて以来、18回も演じました。以来、「和事」の代表的な役の1つとして伝承されています。
紙衣姿の伊左衛門 5代目中村富十郎の伊左衛門 『廓文章』「吉田屋奥座敷の場」 1992年[平成4年]12月
 
 
 
特徴的な表現
紙衣 かみこ
「和事」の表現の1つに「やつし」とよばれるものがあります。本当は身分の高い人物が、なんらかの理由で落ちぶれている様子を演じることをいいます。この「やつし」の象徴として用いられる衣裳が「紙衣」です。本来「紙衣」とは、和紙を貼りあわせて作った粗末な着物をさしますが、歌舞伎の衣裳では、黒い縮緬(ちりめん)に金や銀の糸で恋文の文面などを刺繍(ししゅう)するなどして様式的にデザインされています。
 
 
 
差出し さしだし [面明り つらあかり]
伊左衛門の「花道(はなみち)」からの出には、「差出し」[面明り]とよばれる蝋燭(ろうそく)による照明器具が使用されます。長い柄の先に四角い燭台(しょくだい)がついたもので、江戸時代には「花道」の俳優を照らすために利用されていました。ライトによる照明の現在では、「花道」での演技を古風に演出したい場合に用いられます。この他にも『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』「床下の場(ゆかしたのば)」の仁木弾正(にっきだんじょう)の「スッポン」からの登場でも使用されます。
 
> 代表的な演目 『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』