歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の演目
『祇園祭礼信仰記』 ぎおんさいれいしんこうき
作品紹介
「時代物」の「義太夫狂言」で、戦国時代の動乱に取材した作品です。現在では通称「金閣寺(きんかくじ)」とよばれる場面が上演されています。
 
足利家に謀反を起こし、金閣寺に立てこもる松永大膳(まつながだいぜん)は、将軍の母慶寿院(けいじゅいん)を幽閉し、絵師雪舟(せっしゅう)の孫娘雪姫(ゆきひめ)らを捕らえます。大膳によって桜の木に縛られた雪姫は、足で桜の花びらを集めて描いた鼠が、縄を食いきるという奇跡によって、自由の身となります。この場面は、「爪先鼠(つまさきねずみ)」とよばれる最大の見どころです。また小田信長(おだのぶなが)の家臣真柴久吉(ましばひさよし)は、此下東吉(このしたとうきち)を名乗って大膳に降参したと見せかけ、慶寿院を助け出して大膳を追い詰めます。
雪姫は、女方の数ある役の中でも大役とされる「三姫(さんひめ)」の1つに数えられ、手を縛られた状態で、気品ある演技を求められる至難な役です。一方大膳は、「国崩し(くにくずし)」とよばれる国家を乗っ取る敵役(かたきやく)で、悪の色気を必要とする役です。
三姫の1つ雪姫 3代目中村雀右衛門の雪姫 7代目市川中車の大膳 『祇園祭礼信仰記』「北山金閣寺」 1926年[大正15年]3月 中座
 
 
 
・ 『鎌倉三代記(かまくらさんだいき)』
  時姫(ときひめ)
 
> 『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』
  八重垣姫(やえがきひめ)
 
 
 
特徴的な表現
大ゼリ おおぜり
「金閣寺」の後半、久吉は桜の木をよじ登って金閣寺の2階に幽閉されている慶寿院を助け出します。このとき金閣寺の大道具全体を上下させることで、1階と2階の場面転換が行なわれます。この演出には、舞台の床の一部をくりぬき、その部分が上下に動く「セリ」という舞台機構が使われています。この場面のように建物の大道具全体を上下させる大きな「セリ」は、「大ゼリ」とよばれています。
 
 
 
此下東吉 このしたとうきち・佐藤正清 さとうまさきよ
それぞれ史実の木下藤吉郎(きのしたとうきちろう)[羽柴秀吉(はしばひでよし)・豊臣秀吉(とよとみひでよし)]、加藤清正(かとうきよまさ)に相当します。当時は幕府によって、戦国時代後期や江戸時代の史実をそのまま脚色することが禁じられていました。そのため人形浄瑠璃や歌舞伎では、異なる時代に置き換えたり、フィクションを大胆に組み込んで史実をぼかしたりすることで作品化しました。
その結果、このような役名が付けられました。ただし実名と音が近いため、当時の観客はモデルとなった人物を特定することができました。『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』に登場する大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)と史実の大石内蔵之助(おおいしくらのすけ)の関係も同様です。