歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の演目
『河庄』 かわしょう
作品紹介
紙屋治兵衛(かみやじへえ)と遊女小春(こはる)の心中事件を描いた「世話物」です。原作は近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)の『心中天の網島(しんじゅうてんのあみじま)』ですが、現在上演されている『河庄(かわしょう)』は、後に改作された作品を元にしています。
小春と心中の約束をした治兵衛が茶屋の河庄を訪れると、小春は侍の客の相手をしています。その侍は、治兵衛に意見をするためにやってきた兄孫右衛門(まごえもん)でした。治兵衛は、兄の意見に従って小春と別れることにします。孫右衛門は、小春の懐から治兵衛の妻おさんの手紙を見つけ、小春がおさんへの申し訳なさから身を引く決意をしたことを察します。
治兵衛役は、「和事(わごと)」の代表的な役の1つです。明治から昭和初期に、大阪を中心として活躍した初代中村鴈治郎(なかむらがんじろう)が、この役を得意とし、「家の芸」の「玩辞楼十二曲(がんじろうじゅうにきょく)」に選定しました。この「玩辞楼十二曲」の中には、『河庄』の続きの場面にあたり、治兵衛・おさん夫婦を描いた『時雨の炬燵(しぐれのこたつ)』も含まれており、現在でも上演されます。
 
 
 
特徴的な表現
花道の出
小春と心中の約束をし、今日こそ実行する日だと思い詰めている治兵衛は、「魂ぬけてとぼとぼ、うかうか」という「竹本(たけもと)」の語りに合わせて、「花道(はなみち)」から登場します。懐に手を入れて半目を開き、おぼつかない足取りで登場することで「魂がぬけ」た様子を表現します。柔らかな身のこなしで「和事」の色気を見せる、『河庄』の中でも最も有名な場面です。
 

治兵衛の花道の出 3代目中村鴈治郎(坂田藤十郎)の治兵衛 『河庄』 1997年[平成9年]11月
 
 
 
和事の表現
上方の「和事」の役は、いくぶん滑稽に演じられる点に特徴があります。
治兵衛役でも、客の侍が兄の孫右衛門だと知って驚いたり、店の中に入るときに孫右衛門と押し問答をしたりする場面に、その特徴がよく表れています。