歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の表現
名跡と屋号
歌舞伎俳優の名前の多くは、代々受け継がれて現在に伝えられています。名前を継ぐことを「襲名(しゅうめい)」といい、代々受け継がれる名前を「名跡(みょうせき)」とよびます。一般的に歌舞伎の襲名では、名跡と共にその芸風や得意な演目なども含めて継がれていきます。また代表的な名跡の場合、その名跡に至るには段階的な襲名を経るという特徴があります。例えば市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)という名跡は、現在では新之助(しんのすけ)、海老蔵(えびぞう)を経て襲名することになっています。
 
代々の市川團十郎を描いた錦絵(『古今俳優似顔大全』より)
 
また俳優の家には、市川團十郎家の「成田屋(なりたや)」や尾上菊五郎家(おのえきくごろうけ)の「音羽屋(おとわや)」など、名跡と同様に代々伝わる「屋号(やごう)」があります。これは江戸時代の歌舞伎俳優が、苗字を名乗ることを許されなかったため、代わりに使用していたものです。上演中に客席から掛かる声の多くはこの屋号で、俳優を褒め称えると同時に、舞台を盛り上げる効果があります。

また名跡や屋号が、作品タイトルなどに織り込まれることもありました。例えば1875年[明治8年]に初演された『扇音々大岡政談(おうぎびょうしおおおかせいだん)』という作品名は、5代目坂東彦三郎(ばんどうひこさぶろう)・5代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)という「音羽屋」の俳優が、2人主演することから「音」という文字が2つ織り込まれました。

このような表現からも、歌舞伎が俳優の存在を重視した演劇であることが分かります。