歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の表現
俳優の表現
名跡と屋号 俳優の紋 家の芸 型
 
歌舞伎の舞台を構成しているのは、役や情景の表現だけではありません。さまざまな部分に、俳優の家系や俳優個人を全面に押し出した「その俳優らしさ」、ともいえる表現が存在します。
 
これは歴史的に歌舞伎が、興行と芸の伝承の2点から、俳優の存在を大変重視してきたためです。
江戸時代の芝居小屋は、観客の入りが悪くなると「金主(きんしゅ)」[資金提供者]がつかなくなり、興行の存続に影響が出ました。そのため興行関係者は、俳優の人気をあおることで、観客が増えるように努力してきました。新作を作る場合でも、狂言作者(きょうげんさくしゃ)[歌舞伎専門の作者]は、俳優の魅力を最大限に生かして、観客に喜ばれることを最重視し、そのためにはストーリーを犠牲にすることもありました。
また歌舞伎の芸は、親から子、師匠から弟子へと個人によって伝承されてきました。そのため代々の俳優は、自分の芸を受け継ぐ有力な後継者を育てることに力を注いできました。
ここにも、俳優個人や家系が重視された理由があります。

それでは俳優を重視してきた歌舞伎の特徴が、よく現れている表現を具体的に見ていきましょう。
市川團十郎家の紋や家の芸をモチーフにデザインされた柄[中央は7代目市川團十郎](『成田屋仕入新形』)