歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の表現
さまざまな情景の表現
歌舞伎の場面の表現は、大道具、小道具、「下座音楽(げざおんがく)」とよばれる効果音、舞台機構などが駆使されています。ここではどのような工夫によって、その場面の情景が表現されているか、そのポイントを概説します。
 
「定式」の大道具 天候を表す演出 松羽目物の演出 幕切の演出
 
幕切の演出
「幕切(まくぎれ)」は1場面が終了する直前から、幕が閉まりきるまでの間をさします。その場面の締めくくりとなり、観客に強い印象を残すため、効果的な演出が工夫されています。その中のいくつかを紹介します。
 
絵面の見得 えめんのみえ
 
絵面の見得 7代目尾上梅幸の千代 17代目中村勘三郎の松王丸 8代目大谷友右衛門の園生の前 4代目尾上菊丸(尾上菊史郎)の菅秀才 17代目市村羽左衛門の源蔵 4代目中村雀右衛門の戸浪 『菅原伝授手習鑑』「寺子屋の場」 1981年[昭和56年]12月
 
写真は『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』「寺子屋の場(てらこやのば)」の「幕切」です。このように複数の登場人物が同時に「見得(みえ)」をした状態で、全体の構図が絵のようにきまる「見得」を「絵面の見得」とよびます。またあたかも俳優同士が、引っ張りあっているような、緊張関係を保った状態であるため、別名「引張りの見得(ひっぱりのみえ)」ともよばれます。「幕切」の場面の人間関係や状況を象徴的に表現し、観客に印象付ける効果があります。写真では、中央の園生の前(そのうのまえ)と菅秀才(かんしゅうさい)親子を他の4人が敬っている様子を表現しています。
 
 
 
三段を使用した幕切
 
三段を使用した幕切 坂東弥十郎の小山義仲 3代目市川笑三郎の小女郎狐の精 3代目市川猿之助の相馬太郎 6代目澤村田之助の七綾姫 4代目市川段四郎の卜部勘解由 『四天王楓江戸粧』「紅葉ヶ茶屋の場」 1996年[平成8年]10月
 
「時代物(じだいもの)」や舞踊劇などの「幕切」では、舞台中央に緋毛氈(ひもうせん)に包まれた「三段(さんだん)」をとよばれる階段を使用する場合があります。この段には一座のトップ俳優の「座頭(ざがしら)」が、登って「見得」をします。なお女方のトップ俳優である「立女方(たておやま)」は、座頭に遠慮して一般的には段が少ない「二段」を使用します。
「三段」は、「座頭」の俳優の存在を強調する効果があり、写真のように「座頭」を中心として一座の俳優が居並ぶ「幕切」は、大変豪華で古風な印象を与えます。
 
 
 
 
 
 
幕外の引込み まくそとのひっこみ
 
幕外の引込み 2代目中村吉右衛門の熊谷直実 『一谷嫩軍記』「熊谷陣屋」 1990年[平成2年]12月
 
「本舞台(ほんぶたい)」の幕が引かれた後に俳優が「花道(はなみち)」に残って演技をし、引込む演出です。短時間で幕が閉まる「本舞台」での「幕切」とは異なり、俳優が「花道」を徐々に引込んでいくことにより、余韻を残した「幕切」となります。
写真は、『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』「熊谷陣屋の場(くまがいじんやのば)」熊谷直実(くまがいなおざね)の「幕外の引込み」です。戦で息子を犠牲にした熊谷は、出家して戦場から旅立ちます。「黒御簾(くろみす)」の部分を除いて「定式幕」が閉まった後、1人「花道」に残った熊谷は、「愁い三重(うれいさんじゅう)」とよばれる「合方(あいかた)」[三味線の曲]に送られながら歩み始めます。そして「遠寄せ(とおよせ)」とよばれる戦の様子を表す「鳴物(なりもの)」が聞こえる中、逃げるように「花道」を引込みます。この演出は、戦の無常を悟った熊谷の心情を観客に強く訴えます。
 
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  通称「床下(ゆかした)」の仁木弾正(にっきだんじょう)
 
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