歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の表現
さまざまな情景の表現
歌舞伎の場面の表現は、大道具、小道具、「下座音楽(げざおんがく)」とよばれる効果音、舞台機構などが駆使されています。ここではどのような工夫によって、その場面の情景が表現されているか、そのポイントを概説します。
 
「定式」の大道具 天候を表す演出 松羽目物の演出 幕切の演出
 
松羽目物の演出
歌舞伎には、能や狂言を歌舞伎化した「松羽目物(まつばめもの)」とよばれる作品群があります。幕末に初演された『勧進帳(かんじんちょう)』をさきがけとして、明治以降の歌舞伎が高尚化する流れに合わせて、多くの作品が作られました。
「松羽目物」では、次のような演出を組み合わせて、総合的に能や狂言の雰囲気を出します。
 
松羽目物の代表作『勧進帳』 9代目松本幸四郎の弁慶 7代目市川染五郎の富樫 2004年[平成16年]12月
 
大道具
「松羽目物」という名称は、図のように正面に松のある羽目板(はめいた)の描かれた「松羽目」とよばれる「定式」の大道具から付けられました。この松は、能舞台の鏡板(かがみいた)に描かれた老松を写しています。また下手にある五色の「揚幕(あげまく)」、上手にある「臆病口(おくびょうぐち)」とよばれる出入り口も能舞台を模したものです。
 
衣裳
能や狂言の装束を基本としており、実際の服装をもとに表現されている他の作品の衣裳とは異なります。代表的な例として、『勧進帳(かんじんちょう)』の弁慶(べんけい)などが使用する「大口(おおぐち)」とよばれる独特の袴(はかま)が挙げられます。この袴は、中に茣蓙(ござ)が入れられて形が崩れにくくなっている点に特徴があります。
 
せりふ
能や狂言では、最初に登場する人物が登場直後に自らの素性や物語に至る経緯を説明する、「名ノリ」[歌舞伎では「名のり」と表記]というせりふがあります。「松羽目物」では、この「名ノリ」を取り入れています。
例えば『勧進帳(かんじんちょう)』では、富樫左衛門(とがしさえもん)の「斯様(かよう)に候う者は、加賀の国の住人富樫の左衛門にて候。」という「名のり」の一文で始まります。「名のり」以外のせりふも、「候(そうろう)」文が多いなど能や狂言の影響を受けており、またせりふ回しも重々しくなるなど、他の歌舞伎作品とは異なっています。
 
 
 
この他、「長唄(ながうた)」の一節を謡曲風(ようきょくふう)に唄う「謡がかり(うたいがかり)」や能の囃子(はやし)を取り入れた「鳴物(なりもの)」の演奏など、格調高く表現するために音楽の面でも能や狂言を取り入れています。
 
> 『勧進帳(かんじんちょう)』
・ 『船弁慶(ふなべんけい)』
・ 『土蜘(つちぐも)』
 
・ 『身替座禅(みがわりざぜん)』
・ 『棒しばり(ぼうしばり)』
・ 『素襖落(すおうおとし)』