歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の表現
情景の表現
ここでは大道具の様式性、小道具や「下座音楽(げざおんがく)」などの組み合わせによる場面表現の実例、「幕切(まくぎれ)」の演出の特徴など、さまざまな面から「その場面らしさ」の表現を解説します。
 
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大道具
 
『戯場訓蒙図彙』より
 
歌舞伎の大道具は、背景を描いた「書割(かきわり)」、建物部分の「屋体(やたい)」、そのほかの岩組や樹木などを含みます。
「書割」は、平面的に描かれるのが特徴で、リアルさよりも飾ったときの絵になる美しさを重視します。「屋体」は、場面転換をスムーズに行うために、いくつかのパーツに分けて作られる点に特徴があります。また1ヶ月の公演終了後には、基本的に解体されるため、必要以上に頑丈に作られることはありません。
歌舞伎の大道具制作には、「芝居心」が必要だといわれています。この場合の「芝居心」とは、脚本に書かれている内容をきちんと理解し、その場面全体の演出を把握することを意味します。色使いや飾り方が、「芝居心」に裏付けられていれば、俳優の演技や「下座音楽」などと調和し、「その場面」らしさを観客に伝える大きな要素となります。
 
鬘 かつら
小道具による「その場面らしさ」は、開幕時に舞台装置の一部分として置かれている「出道具」によって表現されます。「出道具」は、実際に日常で使用される「本物」と舞台で効果的に見せるために作られる「拵え物(こしらえもの)」[作り物]に分かれます。
「本物」は、場面に合ったものを使用することによって「その場面らしさ」を表現します。例えば武家屋敷の場面と町家の場面では、家具や食器などの「出道具」は同じではなく、それぞれの身分相応なものが使用されます。
また「拵え物」には、『東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)』で使用される「戸板返し(といたがえし)」などの「仕掛物(しかけもの)」、舞台で壊されてしまう皿や三宝(さんぼう)などの「壊れ物(こわれもの)」などがあり、誇張して作られることで、舞台上では本物以上に効果的な働きをします。
 
> 代表的な演目 『東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)』
 
下座音楽
「下座音楽」は800曲以上あるといわれますが、それぞれの曲の演奏される場面は、ある程度類型化されています。例えば、「禅の勤(ぜんのつとめ)」という合方は、寺院に関係のある場所やうら寂しい場面で、「清掻(すががき)」という合方(あいかた)[唄の入らない三味線の曲]は吉原の場面、「在郷唄(ざいごううた)」は田舎や百姓家の場面で歌われる、という具合です。
ただし演奏のテンポや強弱は、舞台の情景にあわせて決められていきます。
 
 
 
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