歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の表現
役の表現
江戸時代の人々は、性別や身分、年齢、職業、立場などによって、髪型や服装、言葉遣い、使用する道具などがおおよそ決まっていました。歌舞伎の扮装・小道具・演技などは、これらの決まりごとをベースにして、役の性格を端的に表現すための誇張や様式化が行なわれています。
扮装や小道具における誇張や様式化の方法は、以下のように「時代物(じだいもの)」や「世話物(せわもの)」などの作品の設定や役柄などと密接に関わっています。
 
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衣裳
「時代物」に登場する武士や公家(くげ)などの衣裳は、当時の観客である庶民から遠い存在であったこともあり、誇張や様式化の度合いが大きくなっています。その中でも「荒事(あらごと)」や「公家悪(くげあく)」など、役の性格が明確な役柄では、性格が一目で分かるほどに誇張と様式化が進んでいます。
 
また「時代物」の役の衣裳は、必ずしも描かれている時代の服装を反映していない点にも特徴があります。例えば、古代の大化の改新に取材した『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』の登場人物の多くは、江戸時代の服装に基づいた衣裳を身にまとっています。これは当時、時代考証という感覚がなく、同時代の扮装を取り入れることにより、登場人物の性格をより分かりやすく表現できたためです。
一方、当時の観客層と一致する「世話物」の役の衣裳は、比較的実際の服装に近い形で表現されています。そのため役柄や役の性格は、おもに色や柄で表現されています。
『戯場訓蒙図彙』より
 
鬘 かつら
歌舞伎の鬘は、基本的に鬢(びん)[顔の横の部分]、髱(たぼ)[後頭部]、髷(まげ)[結った髪をまとめた部分]、前髪の4つの部分から成り立っており、それぞれの部分を変化させ、またそれを組み合わせることによって、役柄や役の性格を表現していきます。誇張や様式化の度合いは、衣裳と同じ理由から「時代物」の役の方が進んでいます。
種類は、立役で約1000種類、女方で約400種類といわれています。これは立役の方が、役柄や役の性格が複雑に設定されているためです。
 
小道具
小道具は、実際に日常で使用される「本物」と舞台で効果的に見せるために作られた「拵え物(こしらえもの)」[作り物]に大別できます。使用する役の役柄や性格を的確に表現した「拵え物」は、「本物」以上の効果を発揮します。
 
『戯場訓蒙図彙』より
 
その典型例として挙げられるのが、『暫(しばらく)』の主人公で、「荒事」の典型的な役である鎌倉権五郎(かまくらごんごろう)が使用する大太刀です。この刀は長さが、2メートル近くもあります。もちろんこの刀は、「本物」ではなく「拵え物」です。権五郎の豪快さや荒々しさは、「本物」の刀を使用するよりも誇張された「拵え物」を使用した方が、効果的に表現されます。
拵え物の大太刀をかつぐ9代目市川團十郎の鎌倉権五郎 『暫』 1895年[明治28年]11月 歌舞伎座
 
 
 
では具体的な役を通じて、「その役らしさ」の表現方法の例を紹介しましょう。
 
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