ユネスコ無形文化遺産 文楽への誘い An introduction to BUNRAKU

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演じる人

人形遣い にんぎょうつかい

三人が呼吸を合わせ、人形に命を吹き込みます

人形に役柄を演じさせるための工夫と修練

人形遣い

小柄な人形を、大人が三人がかりで動かす‥‥‥初めて文楽を観る者を驚かす、この大げさにも見えるやり方は、木彫りの人形にさまざまな役柄を演じさせるために、長い歴史のなかで工夫されてきたものです。

胴部を支え、頭部を動かしながら、人形の右手も扱う演者が「主遣い(おもづかい)」。自らの右手で人形の左手を扱うのが「左遣い(ひだりづかい)」、屈んだ姿勢で人形の足を扱うのが「足遣い(あしづかい)」です。三人の人形遣いは、無言のサインで呼吸を合わせながら、生きている人のように人形を動かします。

人形遣いは、まず足遣いから始めて、次いで左遣い、そして主遣いへと進みますが、「足十年、左十年」といわれるような、長い修練を必要とします。


人形遣いの衣裳

人形遣いは、鑑賞の妨げにならないよう、「黒衣(くろご)」という忍者のような黒い衣裳を身に着け、顔も隠します。黒は見えない色という、日本の伝統芸能における約束事によるものです。ただ、「出遣い(でづかい)」といって、主遣いが顔を出し紋付・袴などを着て人形を扱う場合も多くなっています。

三人の人形遣いが人形の後ろで身を寄せ合うため、主遣いは高さが20cmから50cmほどもある「舞台下駄(ぶたいげた)」を履くことで人形を高い位置で支え、足遣いが動きやすいようにします。


特徴的な演技

人間を真似るような写実性よりも、人形にしか表現し得ないような、象徴性を重視する特徴的な演技がさまざまに形成されてきました。立役(たちやく:男役)、女方(おんながた:女役)それぞれに、名前のついた演技の型があります。

立役の演技は、力強さを強調する派手な動きが多く見られます。たとえば「団七走り(だんしちばしり・だんひちばしり)」は、腕を前後へ大きく振りながら、大股で足を踏み出して進む走りの演技で、その人物の勇猛で豪快な個性が際立ちます。

一方、女方は繊細な動きで美しさや優しさを表します。たとえば、つらい気持ちをこらえる場面で用いられる「後ろ振り(うしろぶり)」という演技があります。客席に背を向けながら、人には不可能な姿勢で大きく振り返り、恨みや哀しみが頂点に達したことを美しく印象づけます。