“文楽”はわが国の伝統的な人形劇であり、世界に誇りうる高度な舞台芸術の名称 です。文楽というのはもともと、この人形劇を上演する劇場の名前だったのですが、いつのまにか芸能そのものをさすようになり、現在では正式の名称として使われてい ます。 “文楽”が、この名で呼ばれるようになったのは、明治の終わりごろからで、それまでは“操り浄瑠璃芝居(あやつりじょうるりしばい)”あるいは“人形浄瑠璃”といいました。つまり“浄瑠璃”にあわせて演じる操り、すなわち人形芝居という意味です。そして、文楽が世界に誇れる芸術という理由も、“浄瑠璃”の高度な戯曲・音楽性と独特の人形操法―― 一体の人形を三人がかりで動かす“三人遣(づか)い”の様式にあるのです。 世界には数多くの人形劇がありますが、そのどれもが単純な内容の神話やお伽(とぎ)話を扱ったものです。文楽のように一日がかりのシリアスな長いドラマを展開するものはありません。さらに、それらの人形劇のほとんどは、人形を操作する人の姿を観客から隠すための工夫がこらされています。天井から糸でつるすマリオネット、人形の下から手を差し入れ指で動かすギニョール、スクリーンに映して遣(つか)う影絵人形など、いろいろな方法があります。ところが、文楽では人形遣いが堂々と観客の前に登場します。世界の人形劇とまったく対照的な二つの特徴こそ、文楽が最も高度に発達した人形芸術となった理由と言えましょう。
 


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