太夫(たゆう)

文楽は、義太夫節の語りによって劇が展開していきます。義太夫節には、本来は感情のない木でできた人形に、いかにして生命を吹きこむか、という使命があります。太夫は、登場人物のすべてのセリフだけでなく、その場の情景から事件の背景の説明までをひとりで語ります。長いものだと90分近くかかり、登場人物の数も数人から十数人になります。それをひとりで老若男女、武家、庶民の別を語り分けるのですから、並たいていの仕事ではありません。しかも、その人物の心を表現することが最大の目的となります。初めて接する義太夫節の語りや演奏は、聞く人におおげさな感じを与えるかもしれません。しかしそれは、それぞれの役の性格をひき出して観客に強く印象づける義太夫節独特の表現なのです。そして、内容が古めかしい昔の話であっても、そこには人間本来の姿や人情がこまやかに描かれていて、現代の若い人たちにも共感を呼ぶことができるのです。


三味線(しゃみせん)

三味線には、太棹(ふとざお)、中棹(ちゅうざお)、細棹(ほそざお)の三種があります。名称のとおり、太棹が一番大型で音が低くて大きいため、腹から声を出す義太夫節に使用され、力強い音色を聞かせます。義太夫節の三味線は、他の音楽の伴奏とはちがって“心を弾(ひ)く”ことを大切にします。太夫の語りが音楽性よりも物語の内容の表現に重点を置くのと同じように、三味線もまた曲の心をこめて太夫の語りを助けることが大事です。いかに美しい音色を出し、鮮やかな撥(ばち)さばきを聞かせても、浄瑠璃の気持ちとかけはなれた演奏では、義太夫の三味線として適切ではありません。ですから、三味線弾きは太夫とまったく一つの心になっているのが理想です。文章であらわす語りとちがって、音色一つで感情を表現するのはこの上なく難しい技ですが、それだけに、名人の三味線ならば初心者が聞いても感動を覚えるにちがいありません。

 


Copyright 2004 Japan Arts Council, All rights reserved.